網膜・ぶどう膜の病気
眼球の外壁は、外膜・中膜・内膜に分類されます。そのうち、外膜は、角膜と強膜よりなり、中膜は、虹彩・毛様体・脈絡膜の3つからなり、内膜は網膜を指します。
内膜である網膜は10層からなり、網膜の黄斑部とは眼底中心部のことを言います。中膜を総称してぶどう膜と言います。ぶどう膜の疾患のうち、ぶどう膜炎はぶどう膜の炎症と、脈絡膜に隣接する網膜・強膜が炎症している状態を言います。症状はさまざまで、眼が赤くなる・痛い・かすんで見える・眩しい・物が歪んで見える・虫が飛んでいるように見えるなどの症状があります。
飛蚊症
視界の中に黒い蚊やごみ、糸のように見える状態を飛蚊症と言います。眼の動きに伴って、一緒に黒い物体が見えて、明るい場所などで気付くことが多くあります。加齢に伴う自然現象とされています。
症状
- 黒い点を蚊が飛んでいるかのように見える
- 黒い点や糸のように見える
- 薄い雲のように見える
- カーテンのかかったように見えない部分がある
- 視力低下
原因
健康な状態の硝子体は、卵白のように透明でドロッとしていますが、なんらかの原因で硝子体が濁ってしまうことで飛蚊症を発症します。この濁りは、病的原因だけではなく、加齢など生理的自然現象として生じることが多いとされます。加齢に伴って、硝子体を構成する水分と線維成分のバランスが崩れ、線維の塊が浮かぶようになり、この塊が光に当たることで影となり飛蚊症の症状として現れます。自然現象による飛蚊症は、病的要因はありませんが、飛蚊症を引き起こす原因となる眼疾患は以下に挙げられます。
- 網膜裂孔
- 網膜剥離
- 硝子体出血
- ぶどう膜炎
以上の疾患の炎症や出血によってできた硝子体の濁りが飛蚊症の症状となります。
治療法
原因が生理的自然現象なのか、病的な原因なのかを特定することが大切です。加齢などによる自然現象の場合は、飛蚊症の症状のみで視野異常や視力低下などに進行することはありません。したがって、とくべつな治療は行わず経過を観察していきます。一方で眼疾患など病的原因による場合は、その疾患に応じた治療を行います。
ぶどう膜炎
ぶどう膜は、虹彩・毛様体・脈絡膜からなっています。ぶどう膜炎は、このぶどう膜の炎症と、脈絡膜に隣接する網膜、さらに強膜が炎症している状態を言います。ぶどう膜炎から徐々に、眼内全体に炎症が広がります。
症状
- 視力低下
- 眼の痛み
- かすんで見える
- 眼の充血
- 眼が痛む
- 眩しい
※眼の中に炎症が広がると、白内障・緑内障・網膜前膜・硝子体混濁・嚢胞様黄斑浮腫などの合併症を引き起こす恐れがあります。
原因
原因となる疾患の代表的なものとして、サルコイドーシス・ベーチェット病・原田病が挙げられます。
いずれも、全身症状による免疫異常疾患です。サルコイドーシスは、眼・腎臓・心臓など全身各臓器に肉芽腫という腫瘤が形成されます。また、ベーチェット病は、ぶどう膜の炎症と口腔内や陰部に潰瘍が生じる疾患です。原田病は、メラニン色素を生成するメラノサイトに慢性的な炎症が起こって生じる自己免疫疾患です。
治療法
主に免疫抑制剤を用いた内科的治療を行います。軽度のぶどう膜炎の場合は、ステロイド剤点眼薬による治療を行いますが、それでも改善が難しい場合やコントロールが困難な場合にはステロイド内服薬を使った治療をします。ぶどう膜炎の完治は難しいとされ、治療後も副作用・症状の再燃・続発症などが発生する恐れがあるため、それらの早期発見のためにも定期的に検査を受ける必要があります。特に、治療中はステロイド剤の副作用と感染症の合併に注意が必要です。
糖尿病網膜症
糖尿病の三大合併症のひとつです。糖尿病罹患者のうち、およそ3分の1が糖尿病網膜症とされるほど、一般的に知られた合併症です。糖尿病網膜症は、無症状で病状が進行することが多く、知らぬ間に視力低下が起こり、重篤なケースでは失明に至ることがあります。
早期発見が非常に重要なため、症状がなくても定期的に検査を受けることが大切です。病変の進行度によって、単純糖尿病網膜症・前増殖糖尿病網膜症・増殖糖尿病網膜症の3つに分けられます。
症状
- 初期における自覚症状はありません
- 眼がかすむ
- 視力低下
- 飛蚊症
- 視野の一部が暗くなる
- 視野狭窄
原因
糖尿病によって血糖値が上昇して、網膜の血管が詰まったり、破れたりすると出血します。出血によって、視野狭窄を起こしたり、視力低下したりします。網膜に十分な栄養や酸素が行き渡らないのが原因ですが、重篤な場合は失明に至ることがあるため注意が必要です。
治療法
全身治療として、血糖コントロール・血圧コントロールを行います。加えて、網膜光凝固術・抗VEGF薬療法・硝子体手術治療が検討されます。
網膜静脈閉塞症
網膜の静脈(血管)が詰まることで網膜への血流が阻止され、視力低下や視野欠損などの症状が現れる疾患を網膜静脈閉塞症と言います。網膜静脈の障害される部位によって、網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症に分類されます。
症状
- 急激な視力低下
- 物が歪んで見える
- 視野欠損(視野の一部が欠ける)
原因
網膜に血液を送る血管のうちで網膜静脈が閉塞してしまうことで、網膜静脈閉塞症を引き起こします。網膜静脈の中心部で障害を受けてしまうと網膜中心静脈閉塞症、静脈の分岐先で障害を受けると網膜静脈分枝閉塞症を発症します。このとき、眼底出血が起きると黄斑浮腫が生じます。また、高血圧・高脂血症などが大きく関与しているとされています。
治療法
静脈の閉塞が生じている部位によって治療方針が異なります。
網膜静脈分枝閉塞症の場合は、視力障害に支障がない部位のため自然回復が見込め、しばらく経過観察を行います。しかし、静脈の中心部に障害を受けた網膜静脈分枝閉塞症では、レーザー治療・抗VEGF療法・硝子体手術など、積極的な治療を行います。
また、高血圧や高脂血症が網膜静脈閉塞症を引き起こすリスクを高めるため、発症予防のためにも生活習慣の改善や予防のための内服薬治療を行うことがあります。
中心性漿液性脈絡網膜症
網膜の一部に水が溜まることで、見えにくくなる、物が歪んで見えるなどの症状が現れる疾患を中心性漿液性脈絡網膜症と言います。一般的に、中心性網膜症と呼ばれています。
症状
- 物が歪んで見える(変視症)
- 見えにくい
- 視界の中心が暗く見える(中心暗点)
- 実際の物よりも小さく見える(小視症)
※ほとんどの場合で片目に症状が現れます。
原因
特定される原因は明らかになっていませんが、30~50歳代の男性に多く見られることから、過度なストレスや過労が発症のきっかけとなっていると考えられています。
治療法
内服薬を用いた治療のほか、レーザー光凝固術を行います。数カ月経過によって症状の改善が図られます。なかには長引く症状や、再発を繰り返して視力障害が長く続く場合があります。このような後遺症を防ぐためにも、気になる症状があるときは早めにご相談ください。
網膜裂孔・網膜剥離
網膜の一部に穴が開いたり、裂け目が出来る状態を網膜裂孔と言います。また、網膜裂孔の周りから網膜が剥がれて、その剥がれた部分が光を感じられない状態を網膜剥離と言います。
後部硝子体剥離を生じた際、硝子体と網膜の一部だけが癒着し、その部分が牽引されてしまうと網膜裂孔や網膜剥離を引き起こします。網膜に穴ができる裂孔原性網膜剥離と、穴(裂孔)を伴わない非裂孔原性網膜剥離の2種類に分けられます。
症状
- 前兆として光視症・飛蚊症の症状が見られる(初期症状)
- 視野周辺に閃光が走る
- 視野全体が暗くなる
- 見える範囲が狭くなる(視野欠損)
- 物が歪んで見える
- 視力低下
原因
裂孔原性網膜剝離では、加齢・老化、外傷、網膜の萎縮が主な原因とされます。また、後部硝子体剥離・硝子体の液化変性などが挙げられます。さらに、未熟児や遺伝性疾患に続発する場合、眼の周りに重度のアトピー性皮膚炎があり強く擦り過ぎることで発症する場合もあります。
一方、非裂孔原性網膜剝離のうち、糖尿病網膜症や未熟児網膜症によるのがけん引性網膜剥離、ぶどう膜炎・中心性漿液性脈絡網膜症・加齢黄斑変性によって生じるのが滲出性網膜剥離です。
治療法
網膜が剥離している場合は、網膜を戻す手術治療を行います。硝子体手術治療と強膜バックリング術があります。また、網膜裂孔の場合でもまだ剥がれていないときは、レーザー治療や凝固術などで網膜剥離を予防することができます。
網膜色素変性
網膜の視細胞や網膜色素上皮細胞などに異常が生じて視野狭窄や羞明などの症状のほか、視力低下や色覚異常が生じる疾患を網膜色素変性症と言います。
症状
- 暗いところで見えづらくなる(夜盲)
- 光が眩しく感じる(羞明)
- 視野狭窄
- 視力低下
- 色覚異常
※病状の進行度によって症状が異なります。また、網膜色素変性から白内障・緑内障を合併しやすいとされています。
原因
おおよそ半数で遺伝子異常が原因とされています。EYSという遺伝子異常を代表とし、様々な原因遺伝子があります。また、突然発症する場合もあります。
治療法
確立された治療方法がありません。病気の進行を遅らせる治療として、ips細胞や人工網膜研究などがされていますが、まだ実用化されていません。したがって、遮光眼鏡の装用や薬物療法などが検討されます。白内障や緑内障を合併しやすいため、定期的な検査が必要です。またこの場合は、白内障や緑内障の治療を行います。
加齢黄斑変性症
網膜の中央にある黄斑部分に異常を来たし、視力低下や物の見え方に異常が現れる疾患を加齢黄斑変性症と言います。早い方では40歳代で発症しますが、主に加齢や紫外線が原因とされます。加齢による黄斑機能が障害される「萎縮型」と脈絡膜に生じる異常な新生血管が破れて出血する「滲出型」の2種類に分類されます。
症状
- 文字の一部が欠けて見える
- 物が歪んで見える
- ぼやけて見える
- 視界の中心が暗い
- 色覚異常
※片目から発症することがありますが、症状に気付きにくいことから、病状がかなり進行してから気付くケースが多く見られます。一般的に、萎縮型に比べて滲出型の方は病状が進むのが早く、眼症状や視力低下が重症になるケースが多いと言われています。
原因
加齢や紫外線が主な原因です。加齢に伴って、黄斑機能に異常が起こり、視力低下します。脈絡膜から生じる異常な新生血管が原因となります。発症リスクが高い要因は、紫外線を浴びる・喫煙による病的変化などが挙げられます。
治療法
萎縮型に対する確実な治療方法はありません。
滲出型に対しては、薬物療法・レーザー凝固術・光線力学的療法・手術治療などがあります。薬物療法では、異常な新生血管の活動を抑制するため、血管内皮増殖因子を阻害する薬剤を直接眼球に注射します。光線力学療法とは、患部に光感受性物質の点滴後にレーザーを当てます。術後は、強い光など紫外線を浴びないように注意が必要です。